1冊の絵本が、子どもの「見上げる力」を育てる
寝る前の読み聞かせ。
電気を少し落としてページを開くと、子どもの目がぱっと輝く。
「ねえ、つぎは?」
「この上にはなにがあるの?」
― そんな声が部屋に響く瞬間、親の心も少しだけ明るくなる。
そんな魔法を生み出してくれるのが、いわいとしおさんの名作『100かいだてのいえ』。
発売から10年以上が経ってもなお、多くの親子に愛され続けるロングセラーです。
この絵本のすごいところは、読むたびに“のぼる”感覚を味わえること。
ページをめくるごとに空へと近づいていく構成は、まるで一冊の中を探検しているようなワクワク感にあふれています。
「絵本なのに体で感じる冒険」――それが『100かいだてのいえ』の最大の魅力。
子どもたちは、ただ物語を聞くだけでなく、“上へ進む”という行動そのものを楽しむのです。
読み終えたあと、子どもが天井を見上げて「上にはなにがあるの?」とつぶやく。
その一言こそ、この絵本がくれる最高のプレゼントです。
のぼるほどに広がる世界──絵の中の“小さな発見”を楽しむ
物語の主人公は「てんちゃん」。
ある日、空から届いた一通の手紙をきっかけに、“100かいだてのいえ”へと出発します。
そして、下から上へと、未知の世界を一段ずつのぼっていくのです。
この家には、階ごとにさまざまな生きものが暮らしています。
10階ごとにテーマが変わり、たとえば……
1〜10階: ネズミの部屋(チーズづくりと明るいキッチン)
11〜20階:カエルの部屋(湯気の立ちのぼるおふろの階)
21〜30階:アリの部屋(トンネルを掘る働き者たち)
91〜100階:そして最後に待つ“空の上の住人”――
ページごとに描かれた部屋の細部には、生活の息づかいがあります。
ベッドの形、カーテンの柄、食べ物の違い……。
何気ない絵の中に、「その生きものらしい暮らし」が丁寧に描かれているのです。
親子で読むときは、ぜひこう問いかけてみてください。
「この部屋にはなにがある?」「ここに住むならどこが好き?」――。
そうすると、子どもは絵本の中の世界を“自分の言葉”で説明し始めます。
それは、観察力・言葉の力・想像力を同時に育てる最高の時間です。
『100かいだてのいえ』は、子どもにとって“読む絵本”ではなく、“探す絵本”。
発見の連続が、最後のページまで飽きさせません。
なぜこんなにも夢中になるのか──“のぼる”というデザインの魔法
この絵本がほかと決定的に違うのは、「縦に読む構成」です。
普通の絵本は横にめくりますが、『100かいだてのいえ』は縦に展開。
つまり、“読む=のぼる”。
この動きそのものが、子どもの身体感覚にぴたりと合うのです。
「次はどんな階?」「上には誰がいる?」という好奇心が、自然にページをめくらせます。
また、階ごとに世界が完結しているのもポイント。
それぞれの階はまるで小さな“物語の部屋”。
ねずみの世界はチーズの香りがし、かえるの世界は湿った空気を感じさせる。
そんな想像の広がりが、絵本の中に立体感を生み出しています。
作者・いわいとしおさんはインタビューでこう語っています。
「絵本の中を“上へ”進む感覚をつくりたかった。読んでいるうちに、空を見上げたくなるように。」
その狙い通り、子どもたちは体ごと物語にのめり込みます。
そして気づかぬうちに、“立体的に考える力”を養っていくのです。
対象年齢は?
3歳〜7歳がメインターゲット。
3歳頃は“絵を追う楽しさ”、5歳では“法則を見つける面白さ”、小学生になれば“構造としての面白さ”。
成長に合わせて楽しみ方が変化する、長く使える絵本です。
シリーズはあるの?
あります。人気の高さから、次々に世界が広がりました。
『うみの100かいだてのいえ』──もぐる構成。海の底まで冒険!
『そらの100かいだてのいえ』──さらに高く、空の上へ!
『ちかの100かいだてのいえ』──地下の奥深く、暗闇の世界へ!
どの作品も方向性が異なり、「空間を感じる力」を育てるという共通テーマでつながっています。
どう読むとより楽しめる?
絵本を縦に立てて読む : 実際に“のぼる感覚”を体で体験。
1階ずつ止まりながら読む : 「ここに住むならどこがいい?」と質問を。
親子で交互に読む : “登る役”と“読む役”を交代して物語に参加。
寝る前に読めば、リズミカルな文章と穏やかな色彩が自然な眠りを誘います。
子どもが「もう一回!」と言うほど、読後の満足感が高い作品です。
上を向いて読む、という贅沢
『100かいだてのいえ』は、単なる“高い家の話”ではありません。
それは、子どもが世界を見上げる力を取り戻す絵本です。
いま、子どもたちの多くはスマホやタブレットを見下ろす時間が増えています。
この絵本は、そんな現代の生活に逆らうように、「上を見る」楽しさを教えてくれます。
上へ、上へ。
子どもがページをめくるたびに、空へと心が伸びていく。 その体験が「もっと知りたい」「見たい」「考えたい」という知的な好奇心を自然に育てていくのです。
そして最後の100階で出会う“あの存在”に、きっと大人も笑顔になります。 物語の結末には、空のようにおおらかなメッセージが込められています。
親子で“のぼる”時間をプレゼントしよう
どんなに忙しい日でも、たった10分だけ絵本を読む時間をつくる。 それだけで、子どもの世界は大きく広がります。
『100かいだてのいえ』は、読むたびに発見があり、 親子で「もう一度、上へ行こう」と思える絵本。
ページを開けば、そこには空につながる階段が待っています。